
『練り上げられた充実のエッセイ集。東野氏の「笑い」へのこだわりに注目!』
本書はこれに続く『毒笑小説』と『黒笑小説』とあわせ3部作をなしている。今回残りの2冊を読み、東野圭吾氏の笑いへの「こだわり」をあらためて痛感させられた。3部作の出発点『怪笑小説』に所収された計9本のエッセイはどれも魅力的で練り上げられたものばかりで興味が尽きない。巻末には東野氏自身による異例ともいうべき「あとがき」がすべてのエッセイに対して付され、各エッセイの背景にある作者の心理や執筆動機などを窺い知ることができる。
「解説」を担当された真保裕一氏が丁重に述べているように、従来の東野圭吾の諸作品に慣れ親しんだ読者からすれば、本書のような短編集はそのタイトルからして思わず首を傾げざるを得ないであろう。「あとがき」が作者の「照れ隠し」であるという説明には十分に納得できる。貴重な「あとがき」である。本書の内容について詳しく紹介する必要はない。興味をそそる主題から自由に読んでいけばいい。個人的には「逆転同窓会」、「しかばね台分譲住宅」、「あるジーサンに線香を」の3編が特に印象深かった。
なお『毒笑小説』の巻末には、京極夏彦氏との対談が掲載されており、両者が「笑い」作品にかなりの労力を費やしていることが克明に記されている。「この人おかしいのではないか」と思われるくらいの作品を仕上げたいという覚悟のもとに執筆していることを知った以上、われわれは単に「流し読む」のでなく、作者の「笑い魂」なるものを少しは意識して読み進めたほうがよい。「笑うスイッチと泣くスイッチ」は「近所にある」という二人の呼吸ぴったりの会話に私は思わず「なるほど、深い!」と呟いたほどだ。
いずれにせよ本書を含む3部作(もしかしたら更に続きがあるのかもしれない)は、東野圭吾の諸作品において特別な意味を有しており、本格推理を書き上げたとき以上のエネルギーが凝縮されていることを忘れてはならない。「笑い」の奥深さに挑む傑作集だ。