・'゜☆。,:*:・'゜★゜'
東野圭吾ファンサイト
・'゜☆。,:*:・'゜★゜'

秘密 (文春文庫)

『男(父親、夫)、女(母親、妻)、愛、絆、家族、嫉妬、宿命、未来・・・。』
 江戸川乱歩賞受賞作『放課後』から14年後の1999年に日本推理作家協会賞を受賞したあまりにも有名な作品が本書『秘密』である。前作のラストがあまりに衝撃的であったせいか、本書も最後の最後で「何かがある」という私なりの「構え」が必要であった。

 亡くなったと思われた妻の心が娘の肉体に宿るという不可解な事態に戸惑いながらも、平介と直子はこれまで通りの生活を始めてゆく。肉体は事故当時小学校5年生であった娘である以上、当然のように彼女は成長してゆく。彼女は「女として後悔させたくない」という強い決意から、中学受験と高校受験を果たし、そして最終的には医学部に進学してゆく。夫はその成長を静かに見守りながらも自分には決して与えられない(過去の)時間=青春と若さに嫉妬を募らせてゆく。夫婦であっても普通の夫婦ではない。そこに男としての痛いほどの苛立ちや葛藤を覚えずにはいられない。

 ラストの部分に至るまでの筆致はこうしたさまざまな人間の本性・感情を生々しく描き出し、正直なところ平板な印象が拭えない箇所がなかったといえば嘘になる。しかし、である。やはり東野圭吾は卓抜した手法と構想力を有していることを遺憾なく発揮してくれた。382頁以降からだ。心は妻の直子だったところに、娘の藻奈美の心が蘇ってくるのだ。そして二人ではあるが、三人で生活をしているような奇妙な家族生活が始まる。以降のストーリー展開は書かないほうがよい。本書のタイトル『秘密』に投影された作者の真意も読者自らが味わうべきである。

 とはいえ、一言だけ記しておきたいのは、やはり覚悟を決めたときの直子の深層心理である。むろん複雑であったに違いない。しかしそれは彼女の「宿命」であり「使命」でもあった。彼女の心はいつまでも愛する夫である平介を見守り続けるに違いない。そしてそれを悟った平介の心のなかにも彼女の魂が未来永劫に生き続けるに違いない。感銘の作品だ。

戻る

    TOP

(C)東野圭吾ファンサイト